日本を代表するアニメ監督・演出家、富野由悠季(78)。大ヒット作『機動戦士ガンダム』は、放送開始から40年が経った。ガンダムは、アニメ、プラモデル、ゲームとさまざまに展開し続けている。「鬱屈への共感を生んで、視線を自分の内側にだけ向けてしまう作品は危険だと思う」。日本のアニメを黎明期から支えてきた富野監督が、アニメ、エンターテインメント、そして社会へ問題提起する。(取材・文:藤津亮太/撮影:太田好治/Yahoo!ニュース 特集編集部)
(文中敬称略)
富野由悠季監督は、1960年代、日本アニメの黎明期にアニメ業界に入った。78歳の今も日々、最新作の制作に取り組んでいる。
富野は常に憤っている。自分の能力、政治の実態、世界のあり方。さまざまな事象の至らなさが歯がゆく、創作でそれを乗り越える道筋を探す。作品の根底にあるのは「人間はいかに生きるべきか」という問いかけだろう。
だからインタビューの話題は作品の枠組みを超えて、縦横自在に広がった。
「今、1年間で東京の人口が何万人増えているか知っています?」
――いや、知りません。
「年間10万人も増えているんだって。一極集中がずっと加速しているんだ。ということは満員電車が解消されるなんてことはないわけ。満員電車って我々はなんとなくそういうものだと思っているけど、あんなぎゅう詰めの電車に乗るのが当たり前ということそのものが、異常であって、それをはっきり『犯罪的』だと言った人がいる? いたら教えてほしい。じゃあ、この『犯罪的行為』が当然になっちゃっているっていうのは、こういう組織が悪いんだ、都市という構造が悪いんだ、ということだけで我々には責任がないって言えるのか?」
――東京に住んでいるだけでその状況に加担してしまっているというんですか?
「そう。満員電車の『犯罪性』に我々が加担しているということを理解して、だからそれを変えていくっていう認識論を育てなくちゃいけない。そういう時代に来ているんじゃないか。それを『JRのすごい技術で、山手線を秒単位で制御できます』なんていう技術論の対策で終わらせてしまうのは間違ってるわけ。こんな身近な問題を我々の問題として処理できない時に、実業家が『100億円払って月に行く』なんてことをやってる暇はないでしょう? それだけの話。これ難しい話じゃないよね?」
富野は、1964年に日本大学芸術学部映画学科を卒業し、手塚治虫の主宰する制作会社虫プロダクションに入社。後にフリーとなり、『機動戦士ガンダム』を筆頭に『伝説巨神イデオン』『戦闘メカ ザブングル』『ブレンパワード』など、多彩な作品を送り出してきた。その多くが、社会と人間の関係から生まれるドラマを扱っている。現代社会においてアニメーション監督はどのような物語を紡ぐべきか。話題は自然と、新海誠監督が今年発表した『天気の子』の話になった。
「新海誠監督というのは、“理科系”のセンスがある人で、雲をあれだけ注視することができるという感覚はとても独自なものです。でも若い男女がいるのに、相手にちゃんと触れようとしないし、なかなか好きとも言わない。そういう内容が『ああ、僕の、私の、なんとなく釈然としない、パッとしない気持ちを代弁してくれているの』という共感性でもってヒットしたのは分かる。分かるんだけれど、そうするとあのラストというのは、そういう鬱屈が生んだ鬱憤ばらしなんだよね」
「もちろん、現実の世界に閉塞感があるから、物語も時代の方向に引っ張られるのはやむを得ないことです。時代に引っ張られずに創作するには、それこそ岡本太郎ぐらい強い自意識がある人でなければ無理なんだから。ただ、僕は現状の鬱屈感だけを描くこと――それは結局、個の物語になるわけですけれど――それが次の時代のステップになるのかといえば、なると思えない。……新海監督の作品は『セカイ系』っていわれているそうだけど、僕はその意味は分からないんですよ」
――セカイ系とは、大ざっぱに「僕と私の小さな空間と、世界の危機のような大問題が、直結してしまう作品」といわれていますよね。
「うん。でも最近、ある人が『YouTuberって、みんな自分たちを神だと思っているだろう』って教えてくれて、いろいろ分かったことがありました。つまり神のごときふるまいができるのは、理解できることだけ理解して、理解できないものは全部無視しているからなんです。この自分が理解できるものだけでできているのが“セカイ”なんだと。ほんとに狭いんだけれど、狭いからこそ“セカイ”と思わなくちゃ惨めなんだよね。現代の鬱屈感というのはそういう表れ方をしているんだと」
――映画に限らず小説などでも、個人の鬱屈に寄り添ってきた作品というのは古今東西いろいろありました。
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